主人公について

つやのよるから見る、不倫リスクを考える

主人公について

共感を覚えるべき人物ではない

タイトルも通常の映画で考えれば相当長く、覚えづらいという欠点もある。印象的に見ればかなりインパクトこそあるが、内容がどんなものかは想像しにくいので実際に見ないと分からない作品といえるかもしれません。ですが公開当時はそれなりに人気作品といわれていただけに中々奥深い作品なのかもしれませんが、登場人物たち全ての感情に共通しているのは一重に、『愛に対する不信感』ではないだろうか。元々は原作小説を起点として作品は構成されていますが、以前から評判を集めていた作品でもあった。原作ファンだった人間にすれば待望の実写化で、どんな風に世界が描かれるのかを楽しみに待っていた人もいるでしょう。

こう言ってはあれですが、映画にて活躍する登場人物たち全員に共感を覚えるといった人は少ないかもしれません。ただでさえ常識的な面からすれば大人の恋愛という枠から逸脱した、倫理的に問題のある行動を起こしている男性が出ている。それこそ艶との関係を持っていた男性たちの中には、彼女の従兄が幼少時に強姦していたというような者まで出てくる。

そうした中でもある意味異質な存在といえるのが、主人公の『松生 春二』だと筆者は考えている。彼自身も不倫の果てに妻子を捨てて駆け落ちをしてしまい、大島に落ち着いて幸せな生活を夢見ていたが、不貞行為を辞めようとしない艶の行動に疲労困憊となっていく。だがそれでも彼女との関係を終わらせることなく、懸命すぎるほどに彼女との生活を夢見ていた。しかしそれも艶が病に蝕まれて昏睡したことで状況が一変する。

ここから先が男性諸君の中に共感できる物がいるかどうかがある意味鍵となってくるのではなかろうか。劇中で繰り広げられる春二の行動はある意味賛否両論を招きそうな異質な行い、そう言わざるをえないからだ。

不倫を掘り返そうとした

艶が意識不明の重体に陥ったことによって春二の中で何かがはち切れた、といった表情を常に劇中で見せている。その様子は行動となって現れ、かつて自身だけでなく彼女が関係を持っていた男性たちに、危篤寸前の彼女を伝えるために名前や銃手などを調べ始めるのだ。これに関して言えば驚愕、という言葉がこれほど似合うものものはないでしょう。そもそも妻の不貞行為をほじくり返して、さらに以前自分以外と交錯していたかもしれない男たちに艶がどうなっているのか、その近況を伝えようとする行いは普通なら考えられない。

春二のこうした行動によって今まで自分が愛していたはずの夫、恋人などの全く異なる側面に女性たちは勘付いていくのだった。中にはすでに故人となった男性もいたが、その妻はどうして自分たちをおいて自らの命を絶ったのか原因が分からず、真実を確かめるために春二の元を尋ねるものまで出始める。それぞれが地に足着いた生活を何とかしていたが、主人公の行為によりそれぞれがまだ少しでも幸せと思っていた生活に亀裂をもたらしてしまう。

自分が愛した女性と関係を持っていた男たちが、艶をどれほど愛していたのかを確認するということ、それはすなわち彼女が今まで何をしてきたのかを改めてその目で直視することも意味していた。どうしてこんなことをする必要があったのか、その疑問が湧いて尽きない。

愛することを止められなかった

春二のしたことは世間体的に考えれば、真っ当な行動だと言えるものではない。元々彼自身も艶という女性に魅了されて妻子を捨てた過去を持っている、それだけでも周囲から非難を受けるべき人間だ。けれどそれ以上に駆け落ちをした先でも2番目の妻となった女性は様々な男と関係を持ち続け、春二の心を蝕んでいく。そこで全てを捨てれば良かったが、離れられなかったのは彼女に依存していた部分がどこかにあったのかもしれません。

徘徊すれば男と連れ添う姿が常に確認されていた奔放すぎる妻が、病によってほぼ植物状態となっていつ逝去してもおかしくない状態になっても、春二は彼女から遠ざかるという選択肢を持つことはなかった。深すぎる愛といえるが、それはもう狂信的すぎるほどに狂気を感じさせる代物でしょう。誰に理解されなくても彼女を愛している、その事実だけが松生春二という個を支える枷であり、楔だったのかもしれません。

健気・献身を通り越した行動

主人公のこうした行いに共感する男性がいるかどうか、などと質問はあまりしたくはない。こうなってくるともはや狂人と現実ではみなされてしまい、行き方や振る舞いを理解する段階ではなくなっていると判断出来る。それこそ彼が不貞を明らかにすることで、今まで幸せではなくても愛する男性がいるという事実に満足していた女性たちに、様々な形で亀裂をもたらしてしまいます。

人によっては春二の様子を『健気・献身』などと表現する人もいますが、それを通り越した正気と思えないと感じる人がほとんどのはず。フィクションだからこそ描けるのかもしれないが、現実にこんな男性がいたと考えたらどうかと、あまり考えたくない状況でしょう。